大判例

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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)124号 判決

一 原告の請求の原因及び主張の一ないし三は、当事者間に争いがない。

そこで本件審決に、これを取消すべき違法の点があるかどうかについて考える。

二 原告はまず、本件発明の要旨についての審決の認定の誤りを主張するので、この点を検討する。成立について争いのない甲第三号証(昭和四七年一〇月二〇日付手続補正書――以下「補正明細書」という。)によれば、本件発明の補正後の特許請求の範囲は、「一個の固体の中に光波の進行方向及びこれと直角をなす方向に連続的な屈折率の分布をもたせることによつて光の反射の減少、集束、反射、分散平行化などを行なわせることを特徴とする光伝送路を少なくともその一部として含むところの光波伝送装置」であるところ、補正明細書第二頁第二行ないし第一一行には、「発光体より生じた光波を受光体に導くための伝送路においては、次の三種類の損失が存在する。第一は、伝送路自体の中で光波のエネルギーが熱その他の形のエネルギーに変換される損失、第二に伝送路中の光エネルギーが回折又はビームの拡がり等により伝送路外へ散逸する損失、第三に伝送路中を伝播する光波が不連続部において反射されるため直進成分が減少する損失である。」旨記載され、更に第三頁第一〇行ないし第二〇行には、「本発明は前述の第三の原因に関する対策に関するものであつて、従来の方法に比し反射損の防止において著しく優るものである。第一図に示す例において、……このことによつて屈折率の不連続に基づく反射を大いに軽減しうる」旨、及び第一頁第四行ないし第七行には「第一図は光の進行方向に徐々に変化する屈折率分布を有し、それと直角な方向には一様な分布を有する従来技術による伝送路を発光体、受光体間の整合に用いた例」との記載があることが認められる。

右記載によれば、本件補正後の発明の発明者らは、一個の固体の中に光波の進行方向に連続的な屈折率の分布をもたせることによつて光の反射の減少を行なわせる光伝送路を少なくともその一部として含むところの光波伝送装置は従来技術として知られていたことを認識していたものということができる。

のみならず、第一引用例(成立について争いのない甲第四号証)には、審決のいうとおり、光の伝送路内における伝送体接合部の双方の屈折率の相違により光の反射損があるのを除くために、一個の固体内の光波の進行方向に連続的に屈折率を変化させるようにした光波伝送装置が記載されている。

原告は、第一引用例のものは、発光体、受光体の形状、面積の異同についてなんら考慮していないところ、発光体や受光体は、材料や形状及び面積を異にするのが現状であるから、工業的価値は極めて小さいばかりでなく、第一引用例は本件発明とは全く相違している、と主張する。しかし、仮に第一引用例記載のものが発光体、受光体の材料、形状、面積等に考慮を払つていないとしても、本件発明も、発光体、受光体の材料、形状、面積等につき、その特許請求の範囲においてなんらの限定もないものであるから、その点においては第一引用例のものとの差異はない。

原告は、更に、第一引用例には、「光伝送路10は、発光部12から発する光の波長に対して透明である」との記載はあるが、光伝送路10の構成は、発光波長に対して透明でない光吸収体となることは明らかであるから、光伝送路とはなり得ないものであるとし、その理由をるる述べている。しかし、仮に第一引用例の光伝送路が発光波長に対して透明でない光吸収体となる、すなわち第一引用例のものは光波伝送装置としては実施不能のものであるとしても、光の反射損を除くために光波の進行方向に連続的に屈折率を変化させること自体の記載はあると認められるのみならず、本件発明者らも右のことを従来技術として認識していたと認められること前説明のとおりである以上、結局原告の前記主張も理由がないこととなる。

三 次に、第二引用例(成立について争いのない甲第五号証)には、マグネシア・アルミナ・スピネルの丸棒を高温化で処理し、丸棒の中心軸から外側に向つてアルミナの成分を変化させ、これによつて光波の進行方向と直角な方向に屈折率を連続的に変化させ、レンズ作用を行わせることが記載されており、かつ補正明細書(第一頁第七行ないし第一〇行)にも、光の進行方向と直角な方向に屈折率分布を有し、光の進行方向には均一な分布を有する伝送路を用いた光波の伝送は従来技術である旨の記載がある。

原告は、第二引用例に示されているものはレンズ体であつて、発光体及び受光体との結合に関してはなんら説明するところがないと主張するが、本件発明は、発光体から受光体に至る伝送路全体において、光波の進行方向と直角をなす方向に屈折率を変化させるもののみではなく、発光体、受光体を長い伝送路につなげる部分を対象として、その部分の屈折率を変化させるものや、あるいは、一様な低屈折率の媒質中に配置された凸レンズに相当する部分を対象とし、この部分の屈折率を変化させるものをも含むと認められ、第二引用例に示されるレンズ体を一様な媒質中に配置したものも本件発明でいう光波伝送装置であるといえるから、原告の主張は理由がない。原告は、第二引用例記載のものは、補正明細書の第二図において従来技術として説明している事項であつて、本件発明ではその欠陥を充分認識していると主張するが、本件発明は、その欠陥を除くために第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとを単に結合したにすぎないものと認められる。

四 原告は、第一、第二引用例には、発光体、受光体の材料、形状、面積等を異にする場合の対策はなんら開示されていないし、本件発明を示唆する記載もないと主張する。しかしながら、本件発明も、発光体、受光体等の材料、形状、面積等を限定するものでないことは前説明のとおりであるから、原告の主張は理由がない。

五 原告は、本件発明は、第一、第二引用例の単なる総和以上の顕著な作用効果を有する旨主張する。しかしながら、右主張を肯認させるに足る立証はない。

六 以上のとおりであつて、補正後の本件発明は第一、第二引用例の記載から当業者が容易に発明し得たものであるとした補正却下の決定を是認し、補正前の発明をもつて本件発明の要旨とし、これが第一引用例のものと同一であるとして特許法第二九条第一項第三号の規定により特許を受けることができないとした本件審決に違法の点はないから、その取消を求める原告の請求を棄却する。

〔編註〕 本件における補正後の特許請求の範囲は左のとおりである。

一個の固体の中に光波の進行方向及びこれと直角をなす方向に連続的な屈折率の分布をもたせることによつて光の反射の減少、集束、反射、分散平行化などを行なわせることを特徴とする光伝送路を少くともその一部として含むところの光波伝送装置。

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